著者・あらすじ
落合陽一
メディアアーティスト。1987年生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学図書館情報メディア系准教授・デジタルネイチャー推進戦略研究基盤代表・JST CREST x Diversity プロジェクト研究代表。大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授を兼務。
あらすじ
「現代の魔法使い」と称される著者が、未来を語ります。「2030年の未来」「貧困・格差は解決できるのか」「環境問題」など、SDGsの取り組みを中心に、未来への展望を提言します。
1. 未来を考えるために必要なこと
まず、本書が作られた意図について説明します。現代は、人類文明が行き着いた混沌とした時代です。インターネットの普及によって生まれたGAFAM(Google・Amazon・Facebook・Apple・Microsoft)という巨大企業が暗躍し、資本主義が世界全体を覆い尽くす。一方で、貧富の差が拡大し、世界各国で貧困や格差が顕著となっています。
このような時代において、地球規模の新しい枠組み「SDGs」の世界的な動きに伴い、これからの10年先を見据えようと本書は誕生しました。本書はSDGsをはじめとして、2030年を考えるための必要なピースを、「地図帳」で俯瞰しながら、読者自身で考えることを目的としています。
2. 未来を考えるためには「テクノロジー」を知る
実のところ、SDGsで掲げられている17の目標の中には、テクノロジーの進歩によって解決ができる問題がいくつも含まれています。著者が注目したのは、「食料」「健康」「資源」「都市」「労働」の5つです。ここでは「食料」にスポットを当てたいと思います。SDGsでは、「2030年までに、飢餓を撲滅し、すべての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱な立場にある人が、一年中安全かつ栄養のある食料を十分に得られるようにする」とあります。
現代は「フードロス」の問題が深刻化していますが、2020年にはブロックチェーンによる食品の管理が始まり、IoTデバイスやAIによる予測と最適化を連携しながら、食品の流通量を厳密にコントロールします。これにより、廃棄率を減少できると期待されます。また、「スマート農業」とよばれる、自動化や測位技術によって農業が効率化します。この技術導入によって人件費が縮小され、生産コストが低下し、目標の達成へと向かうのです。
3. 未来を考えるためには「貧困」を知る
SDGsでは、「貧困」を目標の第一に掲げています。そこには、「2030年までに、現在1日1.25ドル未満で生活する人々と定義されている極度の貧困を、あらゆる場所で終わらせる」を目標としています。
「貧困」とは、金銭的な側面だけでなく、「生活のインフラが整っているか」、さらに未来に対して「自分の能力を発揮できる環境が整っているか」も含まれます。これらを多面的に考慮し、解決していかなければなりません。
この問題を解決するには、途上国で生まれたイノベーションや製品・アイデアを先進国に導入し流通させようとする戦略「リバースイノベーション」と、1個作れば追加コストゼロでいくらでもコピーできる「限界費用のソフトウェア的アプローチ」がカギとなるといいます。まずは、貧困についての認識を一定の水準まで周知させることが優先されます。
4. 未来を考えるためには「環境」を知る
SDGsでは、「気候変動対策を国別の政策、戦略および計画に盛り込む」ことを目標としています。この環境問題に対し、著者は、「今のままの生活を続けるなら、地球は1.7個必要かもしれない」といいます。
これは、人間の活動に必要とされる「土地面積」を逆算した場合、現在の世界全体の人々の生活を支えるには、「地球が1.7個必要という計算になる」ことを意味します。先進国の多くは、自国の面積を軽く上回り、日本は場合、国土の7.1倍の面積が必要という計算になります。
例えば、「トウモロコシ」。1キロのトウモロコシを生産するには、灌漑用水として1800リットルの水が必要とされます。さらにそれを食べて育つ「牛肉」には、1キロあたり1800リットルの2万倍の水が必要とされます。著者は、現代のさまざまな物流や活動のネットワークが複雑に入り込んだ世界では、「影響のつながりの全体性を捕捉しなければ、本質を捉えられない」と警鐘を鳴らします。
まとめ
『2030年の世界地図帳』について要約しました。著者は最後にSDGsという世界規模の目標について、「個人ができること」について触れています。この大きなプロジェクトは、一見、自分には「できない」ことばかりのように見えますが、実は「できること」はあります。それが、「主体的に捉えてみる」ことです。傍観者ではなく、主体者という意識を持つことが何より重要なのです。