SPECIAL INTERVIEW

【連載】井上尚弥選手スペシャルインタビュー Vol.3

SPECIAL INTERVIEW 【連載】井上尚弥選手スペシャルインタビュー Vol.3

負けることを恐れていたら、
「本当の強さ」を手に入れることはできない

WBA世界バンタム級チャンピオン、井上尚弥選手。数々の偉業を成し遂げた彼自身のこれまでの人生や内に秘めた想いを解き明かす、全3回のインタビュー。いよいよ最終回となる今回は、チャンピオンとしての強さの秘訣、自分の心との向き合い方、そして家族への想いなど「人間・井上尚弥」にグッと迫ります!

いいイメージはしない。
最悪なイメージが勝利に導く

2018年10月7日。わずか70秒でKO勝利を決めたWBSS準々決勝の試合は記憶に新しい。
元WBA同級スーパー王者の強豪フアン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)が強烈な一撃によって後頭部から倒れるシーンは衝撃的だった。実際、あの時の状況はどうだったのか?

相手の力量って、1ラウンドの前半でだいたいわかるんです。5月に行われたマクドネル戦でも、相手がジャブを出してきた時にこれ以上のもの(パンチ力やスピード)は出てこないなってわかりましたし。でも、パヤノ戦の時はそういうものは感じなくて、自分が思っていたよりもパンチが当たりにくいと思ったし、どうやって当てていこうかなと考えていたぐらい。でも、一瞬、行けそうな空間がバシっと見えたんです。まさに「ピントが合う」っていう感じで。ボクシングで闘っている間って、3分間集中し続けるのは難しいんですよ。だから誰でも一瞬、気が抜ける時がある。相手と少し距離が離れた時にふっとリラックスする瞬間があるので、相手の呼吸を見ながらその瞬間を狙う。そしたら、見事に当たりましたね。

いいイメージはしない。最悪なイメージが勝利に導く いいイメージはしない。最悪なイメージが勝利に導く
――お話を聞いていると、もう武士の居合術みたいですよね。相手からしたら、刀を抜くや否や、斬られてるみたいな。
そのイメージは結構、近いかもです。ただ、それって自分も相手からやられる可能性があるので気を付けないといけないところです。実際、相手からそういうパンチをもらうこともあるので、父はそれをよく見ていて「今のは、もらうパンチじゃないよ!」と即座に指摘されます。
――お父さん、さすがですね。試合中は、お客さんの声援も聞こえるんですか? 
声援もヤジも全部聞こえてますよ。セコンドの指示を聞かないといけないので、試合中も耳は澄ましているんです。逆に自分のプレーに集中しすぎて、セコンドの指示が聞こえない選手はダメですね。セコンドが客観的に自分や相手の状態を見て、常に作戦を立てて指示してくれるので、集中しすぎないことも重要なんです。なので、お客さんの「ガンバレー!」という声も聞こえています。声援はうれしいですけど、ヤジとか、「どこを打て」とか変に指示するのはやめてほしいかなって。あれって、選手は心乱れると思うので、応援してくれる気持ちがあるなら控えてほしいなと思います。
――お父さん、さすがですね。試合中は、お客さんの声援も聞こえるんですか?  ――お父さん、さすがですね。試合中は、お客さんの声援も聞こえるんですか? 
――アスリートは試合の前に、「いいイメージ」をして臨むという方が多いですが、尚弥さんもイメージトレーニングをして行かれるんですか?

イメトレはしますけど、「いいイメージ」はしないんです。むしろ、「最悪なイメージ」ばかりして臨みます。これは相手がいるスポーツだからかもしれませんが、いいイメージをして行くとそれが通用しなかった時にすごい焦るんです。相手の試合を映像で研究するんですけど、対戦相手はもちろん自分ではないので、いざ自分が向かい合った時に相手は同じ動きをするとは限りません。だからこそ、自分のパンチが当たらないかもしれない、逆にこうやって打たれるかもしれないと、ひたすら最悪のシミュレーションをしておきます。それと相手を過大評価してむちゃくちゃ強いイメージで行くんです。そうすると、実際リングで向き合った時に「この程度か」って気が楽になるんです。

――なるほど。逆に「悪いイメージ」で臨むとは驚きです。それってメンタルが強いからこそ出来ることかなと。尚弥さんは普段、落ち込むことってあるんですか?
そういえば最近、落ち込んでないですね。だって落ち込んでいる暇があったら、練習しろって話ですからね。ただ、奥さんが元気ない時があって、「そんなの落ち込んだってしょうがないじゃん!」って言ったら、「皆が皆、あなたみたいな性格じゃないんだから!」とキレられました。気を付けないといけないです。
――確かに……(笑)。息子さんの明波(あきは)くん、1歳になりましたが、お子さんが生まれて心境は変わりましたか?
生まれたばかりの時はあまり実感わかなかったんですけど、最近かわいくて仕方なくて。家に居たいっていう気持ちが増しました。息子もボクシングに興味は持つと思うんですけど、自分からは勧めないですね。自分みたいにポジティブで負けん気の強い性格だったらボクサーに向いていると思いますが、もし考え込んじゃう性格だったら、この世界は厳しいかなって。それにうちの父みたいに、息子にあれほど張り付いて教えることってできないです。もちろん息子がやりたいって言ったら全力でサポートしますけど、父のような熱の入れ方、気持ちの伝え方って誰にも真似できないと思います。自分が親の立場になってみて、改めて父の凄さやありがたみを身に沁みて感じています。
――お父さんは尚弥さんにとって偉大な存在ですね。これから、こうなりたいという目標はあるんですか?
「こうなりたい」という明確な目標はないですね。ただ、もっと強くなりたいという欲求はあります。それから35歳までは現役をやると決めています。その後は何をしようかなって感じですけど。プロボクサーとして残りあと10年。終わった時に振り返って、「必死に頑張ってきてよかった」と思えたら、本望です。
100%勝つ自信はない。だから100%の準備で臨む! 100%勝つ自信はない。だから100%の準備で臨む!

100%勝つ自信はない。
だから100%の準備で臨む!

――尚弥さんにとって、「強さ」とは何だと思いますか?
哲学的な質問、来ましたね。自分にとって強さとは、「強い相手と闘って、勝ち続けること」。シンプルですが、それだけです。中には今後、負ける試合も出てくるかもしれません。ただ、負けることを恐れていると、本当に強くはなれないと思うんです。負けるのが怖いと思っている選手は、強い相手とは試合できないですからね。
――だから「互角以上の相手としか闘わない」と決めていらっしゃるんですね。
やっぱりお客さんが観てる以上、盛り上がってほしいですからね。勝てる試合だったら、わざわざ会場に行って観たいと思わないじゃないですか。どっちが勝つんだろうって勝敗がわからないから、その場に行きたいと思うわけで。山中さん(山中慎介)とネリ(ルイス・ネリ)の対戦に行った時は、会場がざわざわして異様な雰囲気でしたからね。そういうギリギリの試合って、観る人にとっては心が震えるし、見ごたえあるんじゃないかなって。だから僕自身もざわつかせる試合をしたいです。
――ただ、尚弥さんの場合、どんな相手と闘っても負けるイメージはしないです。
自分も負ける気はしないですけどね(笑)。ただ、100%の自信はありません。だからこそ、最悪のイメージをするし、全力で練習するわけです。100%の準備をして負けたなら、それは相手が強いだけですから、仕方がない。一番嫌なのは、もっとやっておけばよかったと後悔することですね。やり残しのないように精一杯取り組むだけです。
――技術的にここを強化したいという点はあるんですか?
技術というより、どんな人種の相手でも対応できるようにしておきたいという課題はあります。たとえば黒人の選手だと身体のバネも違うし、リーチもはるかに長い。身体能力も圧倒的に高いですから、そういう相手に自分のボクシングが通用するのか? 前回の5月、10月みたいな試合ができるのか? 相手が変われば前回のような勝ち方になるとは限らないので、そこは注力したいところです。

次の試合は5月18日、WBSS準決勝でIBF王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)と対戦する。無敗王者同士の闘いで、事実上の決勝戦とも言われ、世界中から大いに期待が高まっている。その試合に向けて、目下準備中だと語る。

今まさに、試合に向けて気持ちを高めている最中です。開催はスコットランド(グラスゴー)になりますが、日本人の皆さんにもぜひ応援に来て、生のボクシングを見ていただきたいですね! 日本をはじめ、世界中のボクシングファンが熱狂するような試合にできるよう、全力で闘いますので応援よろしくお願いします! 

■試合情報
ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS) 準決勝 
WBA世界バンタム級王者 井上尚弥 VS IBF世界バンタム級王者 エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)

開催日:2019年5月18日
開催地:スコットランド(グラスゴー)

――尚弥さんにとって、「強さ」とは何だと思いますか? ――尚弥さんにとって、「強さ」とは何だと思いますか?
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◎取材・文

伯耆原良子(ほうきばら・りょうこ)
フリーライター・エッセイスト。早稲田大学第一文学部卒業後、人材ビジネスを経て、日経ホーム出版社(現・日経BP社)にて編集記者に。2001年に独立後、雑誌や書籍、Web等で執筆多数。企業のトップから学者、職人、芸能人まで1500人以上に人生ストーリーや仕事観をインタビュー。

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